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「ヨイショ!の神様」

 

 2月19日と26日、新橋演舞場で、金子成人作、ラサール石井演出の舞台「ヨイショ!の神様」 を観ました。同じお芝居を2回観るのはめずらしく、それも1回13,650円の席料だったのですが、おつりが来るほど内容的には面白かったです。もちろん今回も藤山直美さんが出るから観に行ったのですが、中村勘三郎さんや柄本明さんなどの達者な役者さんたちの共演なので楽しみにしていました。期待は裏切られませんでした。

 物語は、2・26事件の興奮冷め遣らぬ昭和11年の東京で、幇間(ホウカン)つまり太鼓もちの主人公(勘三郎)が、世話になった演芸社の娘(小池栄子)の借金を返すための騒動と、自分の責任で死なせてしまった芸人の奥さん(藤山直美)との恋愛と、その奥さんの死んだ旦那の弟(山伏姿で怪しい物売りをする柄本明)とのハチャメチャなやりとりが展開されるものです。

 1回目の観劇は2階席だったので、役者さんの表情や細かい所がよく分らなかったのですが、2回目は前から3列目だったのでよ〜く見えていろいろなことが分りました。まずは、勘三郎さんの演技が素晴らしかったことです。とにかく「うまい!」セリフの内容の深い理解度、観察力、言い回し、場や間の捉え方、表現力、どれをとっても素晴らしいが、一番は「相手のセリフに集中して、その場、その場で毎回初めて相手のセリフを聞いたような反応をすること」です。もちろんプロだから当たり前と言えば当たり前なのですが、何十回と舞台を重ねていくと新鮮さがなくなり、反応が予定調和されたものになりがちなのですが、それに負けないようにするのが本当のプロなのでしょう。

 そしてそれは他の役者さんにも表れていました。柄本さんの演技も一見すると(一見しなくとも)毎回変えているようで、共演者が笑いをこらえるのに大変そうでした。僕の女房は26日の午前の部で観て、僕は夜の部だったのですが、午前には柄本さんの肩には何も着いていなかったのに、夜の部では彼の肩にはオウム(模型)が留まっていたのです(共演者はみんな大笑い)。あと直美さんが投げられて止まるポーズがあるのですが、それも毎回違ったようです。きっとこれらは、アドリブやアイディアで面白かったものを、次の会から取り入れているんでしょうし、それが役者も飽きない、観客も飽きないようにするひとつの方策なのでしょう。

 共演者の小池栄子さんもなかなか演技が上手でした。新たな境地を開いたと思います。火野正平さんも味があってよかった。彼の演技はその役を充分噛みしめているものでした。彼の役の名を呼んでみたくなりました。作者の金子成人さんは才能があって非常に観察力のある人だと思いました。人間の細やかな気持ちの変化や流れを上手に汲み取っている台本です。演出のラサール石井さんも大変だったでしょうが、最後は上手にまとめていいお芝居に仕上げたと思います。

 そして最後に藤山直美さん。しっかりお芝居してました。柄本さんとの絡みでも、柄本さんの一見すると突拍子もない実は計算されたハチャメチャな演技にも、冷静に対応している姿はキリッとお芝居を締めました。勘三郎さんとのやりとりは安心して観ていられましたし、ぐっときて、涙が出てきてしましました。ふたりが、セリフではなく、ジェスチャーで会話するところがあるのですが、面白おかしく泣かせるのに、最後はキチンと落とす(ガクッとさせる)ところが憎いです。

 今回のスタッフでやるのをぜひまた観てみたいです。笑って、泣いて、人生の苦楽を堪能する!それを提供する側は大変でしょうけどやりがいがあることだと思います。楽しい舞台をありがとう!「ヨイショ!の神様」のスタッフの皆々様!




楽屋口でお疲れでスッピンなのに気持ちよくツーショット写真を撮らせてくれた直美さんと