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帰ってきた浅草パラダイス

 

 2月13日、新橋演舞場にて、久世光彦・四回忌追悼、金子成人・原作、久世光彦・演出、ラサール石井・潤色・演出による「帰ってきた浅草パラダイス」を観てきました。

 このお芝居は12年前の平成9年から13年まで4作シリーズとして上演されました。テレビドラマのプロデュース・演出家として数々のヒット作を生み出した故・久世光彦氏の演出により、柄本明さん、中村勘三郎さん、藤山直美さんなどのオリジナルキャストで、活気溢れる大衆芸能のメッカ浅草で日々をたくましく生きる人々の人情味あふれる舞台だったそうです。そして今回はその舞台の再現なわけですが、しかし残念ながら私はその当時の舞台を観ていないので、今回は本当に楽しみにしていました。

 舞台は昭和初期の浅草六区の一画。芸人、弁士、芝居の一座などたくさんの人が集まる町です。風来坊の一匹芸人を中村勘三郎、その妻で女義太夫語りを藤山直美、勘三郎の相棒でクラリネット奏者を柄本明が演じます。物語は地方から買われてきた女の子を勘三郎と柄本がかくまって、見世物小屋に世話をして、その後その女の子が銀幕のスターになってまた再会するというものです。

 一幕が始まって、登場人物がいろいろ出てきて、騒々しく展開していくのはいいのですが、物語の展開の必然性がよく分からないために、最初は舞台の設定がなんだか嘘っぽく見えてしまいました。浅草自体猥雑な場所なので展開もくそもないのでしょうが、若い女優さんの素人みたいな演技も手伝って、こっちが「そういうストーリーなのだろうな〜」的に観る感じでした。

 しかし、勘三郎さんと柄本明さんと直美さん3人の絡みの場面に移ると、そんなことはどうでも良いくらい笑わせてくれました。役者さん本人も楽しみながら、お客さんにいかに楽しんでもらうか一生懸命考えて遊んでいます。なおかつやり取りでは緻密な計算のもと、怒ったり喧嘩したりしています。「演じる」とは「嘘」なのですが「本当に感情を呼び覚ます芸人魂」を持って演じられています。そこはいつも感心するところです。

 直美さんはやはり最高です!ひとつひとつの場面で何をやろうとしているのかハッキリ分かります。今回気づいたのですが、演技のメリハリをつけるために、首をちょっと動かし一瞬決めのポーズを取った後に台詞を言う技術を使っています。謝って頭を下げる場面が特徴的です。それとやはり得意技は「落差のある変化」です。おしとやかを思いっきり演じていたかと思うと、この世で一番のアホに変身する姿は天下一品です!

 今回の舞台の特徴は、舞台の大道具・小道具を上手に使っている点です。部屋の壁を壊して通り抜けたり、床板を踏みこんだらテコで火鉢が吹き飛んだり、障子が息を吹きかけたら倒れるとか、鍋が頭に落ちてくるとか、まるでドリフターズがやっていたコントみたいですが、あの達者な3人にかかると、分かっていても大笑いです。違いはリアクションと表情の面白さです。本当に痛そうにしたり、馬鹿馬鹿しいことを本気でやる姿に、つい笑ってしまうのです。

 何でもありのごった煮みたいですが、シリアスな場面は泣かせてくれます。勘三郎さんと直美さんの真骨頂でしょう。これがあるから舞台が絞まりますし、心が洗われるのだと思います。お客さんの中にはシリアスな場面でもクスクス笑っている人も何人かいましたが、勘違いというか、分からないで可哀そうというか、もったいないなあ、と思います。昔はこういう場面は予定調和だ、安易なお涙頂戴だ、と思う時期もあったのですが、50歳を過ぎると心地よいから不思議です。

 フィナーレのとき、川上は用意していった頭飾りを頭に付けて拍手しました。暮れの縁日で買った商売繁盛の飾りと、大きな手作りのサイコロを2個、カチューシャに付けたものです。周りのお客さんに迷惑でないか、こんなことして直美さんに嫌われるのではないかなどの心配とともに迷ったのですが、「こんな楽しいお芝居で、喜びを自分なりに表してもよいのではないか、僕も参加したい!」と思い、決行しました。

 やったはいいのですが、頭の飾りが落ちそうになるのを押さえているのに忙しかったり、舞台の役者さんは誰も気づいていないみたいで、「そうだよな、舞台の人はたくさんのお客様に向けてお芝居しているのだから、気づいてもらおうなんて、浅はかで、お門違いだ!」「たぶん直美さんは無視してるぞ!」「川上おまえはアホだ!」と、顔は笑いながらもやや不安定な心境で拍手をしていて、幕が降りました。

 でもめげません!!
「楽しかったよー!」を自分なりに精一杯伝えたかったのですから・・・!